名画の色使い
フィンセント・ファン・ゴッホ
「裏返しの蟹」
1887
寸法:38×46cm
ゴッホ美術館
油彩
こんにちは。
今回の記事は
をさらに深く説明した内容になっていますので、色の使い方に自信がない、と悩んでいるあなたに読んでもらいたい記事になっています。
この記事を読んで、配色についての知識を得て
ぜひ、絵画制作に役立ててもらえたらいいなと思います。
画家たちが
どんな事を意図して色を決めていたのかについて
見ていきたいと思います。
色彩についての学問
絵を観ることが好きな方は、いろんな美術展に行っているんじゃないでしょうか?
絵を観ることは、気分転換や優雅な時間を持てる事だったりと生活の中にアクセントを入れてくれるものだと私は思っています。
だけど、絵を観ることは
じつは
絵を上達させるために必要なことでもあるんですよ。
どうしてかというと、それは
色の使い方に共通するものがあるからなんです。
名画と言われる作品や
素敵だな、いいな、と感じる絵には配色の共通点があります。
色彩学というものがありますが
これを勉強していくと、美術や、「絵画」ってなんとなくの画家の感性やひらめきだけで絵を描いたり、
色を塗ったりしているわけじゃないのだということが
分かってきます。
色彩の事を学んだ上で、効果的に印象深い配色になるよう、考えて色を決めているのです。
古典絵画の色の決め方
色使いや色彩の意味を考えることは古代ギリシャでも、
哲学者「アリストテレス」(紀元前384~322)
などによって考えられていましたが、
中世から18世紀までは、
色はメッセージを読み解くための記号でしかありませんでした。
三原色という認識がなかったし、絵具に使う顔料(色のついた粉)も、少なかったので
一番手に入りやすい値段の安い、土からつくった茶色系の絵具で
下書きをしておいて、
最後の仕上げの段階で
値段の高い顔料(色の付いた粉)で、色を塗って仕上げるという描き方をしていました。
色を塗る基準は、何色の服を着ているから〇〇という人物と絵を見た人に、分かってもらうために色を決めていました。
当時の絵画の色は、読み解くための役割でしかなかったのですね。
三原色という概念がない時代に
ラファエロやミケランジェロといったルネサンスの画家たちが描いた作品には
画面の中に赤・青・黄あるいは緑がバランスよく配置されています。
理論として分からなくても、感覚的に三色をバランス良く配置すると、印象深い絵になる事を分かっていたんでしょうか?
この
三原色、を画面に配置することを
「トライアド」といいます。
トライアドという言葉は音楽用語ですが、絵を描く時も3つの色を画面に配色することから、こんな名前がつけられています。
トライアドの配色は、調和のとれた配色なんだそうです。
トライアドは、スイスの芸術家ヨハネス・イッテンが提唱した
配色調和の形式の一つなのだそうです。
印象派以降の色の決め方
色彩のことが、だんだんと科学的に解明されてきた19世紀。
ゴッホの絵を観ると色彩のことをかなり勉強して、絵の中に表現しようとしていたことが分かるのです。
ゴッホは、パリの美術学校で美術を勉強しています。
きっとその時に色彩学のことも学んでいたからなのだと思うのです。
ゴッホは、アンリ・トゥールーズ・ロートレックと同じ学校に通っていました。
画家アンリ・トゥールーズ・ロートレックは
こちらの記事で紹介しています。↓↓↓↓↓
ゴッホは「炎の画家」なんていうキャッチコピーがつけられたりして
情熱的、感覚的に絵を描いたようなイメージを持っているのではないでしょうか?
だけど、決してフィーリングと感覚だけで、絵を描いていたわけではないのです。
ゴッホは精神を病んでいたと、生涯について書かれた本に記載されていますが、そんな中で描かれた絵にも、論理的に計算をして色を塗っていたようなのです。
例えば
この絵はゴッホが亡くなる直前に描かれた絵なのだそうですが
色の進出色と後退色を使って遠近感を表しています。
それから、ゴッホの絵をみてみると、ほとんどの絵が黄色と青で画面が塗られているか、赤と緑で塗られているかのどちらかです。
これは、
1878年にエヴァルト・ヘリングというドイツの生理学者が、色の知覚について、赤・黄・緑・青の4つを基本の色と考えて
その4色の色のうち、
赤と緑
黄と青が網膜に対をなす色どうしと考えました。
ゴッホはこの、エヴァルト・ヘリングの考え方をもとに配色を考えて絵を描いたのでは?と考えられているようです。
参考文献 色彩がわかれば絵画が分かる (光文社新書) 布施英利 著
現代の美術(アート)色の決め方は?
この話を聞くと
「え! 絵って、理屈なの?」
「画家の情熱をぶつけるようにして描くのが、芸術家っていうのじゃないの!?」
と、そんな風に思うかもしれませんが。
いえいえ
そんなことはないんですよ。
実は、私も
「絵って、ロジカル(論理的な思考)とは全く反対の、感覚的なもの」
だと思っていたんです。
もちろん、感覚的な個人の好き嫌いはあるのですが・・・。
美術(アート)は
画家自身の考えを自由に表すことだと、学校教育でも教えているので、そんな風に思ってしまうのかもしれませんね。
それも
間違いじゃないんですけど・・・。
その、考え方は20世紀になってから出てきた考えなんですね。
古典絵画と言われている15世紀のルネサンス絵画から18世紀までは、
宗教信仰のために描かれたので、色は説明の一つ
17~18世紀は、時の権力者のための権威を表すために描かれていたので、画家自身の考えを絵に表すというよりは
絵のクライアントの要望に応える形。
それから、
色彩の記事でも紹介していますが
↓↓↓↓↓ 色の概念が180度変わった訳が分かります。
19世紀に産業革命が起きて、化学技術の発展によって写真が出てきたことや
今までランプの光だけだったものが白熱灯やいろんな光の種類が出てきたので
絵画の世界も
180度考え方が変わったんです。
だから
「アートは自由に表現すること」と学校で教えるようになったという訳なのです。
人工的に作り出されたたくさんの種類の光、それからカメラといった確実に光を再現する機械的な目が作り出されたことによって
人間の「知覚」という部分が美術(アート)の中で重要視されるようになったのだろうな、と思います。
だから、現代は画家は、記憶力や、想像力、画家独自の考え方を表現することが大切なんでしょうね。
色彩についても、
画家独自の選択基準で描かれているのだと思います。
配色はこうすれば上手くなる
配色を勉強するには・・・
それは
昔の巨匠と呼ばれる画家の絵を参考にする事です。
私が参考にしている画家は
主に、ゴッホ
モネ
ミュシャ
ミレー
などです。
補色を使った配色のゴッホの作品を参考にしたり、
モネの作品では、陰影に使っている色を真似て描いています。
モネの油絵は風景画の中にピンクやエメラルドグリーンのパステルカラーが使われているんですよ。
なので、私も空を描く時にピンクを入れたり、
陰に、エメラルドグリーンを使ったりしています。
ミュシャも、オレンジ色と青といった補色を使って画面構成したり、
赤と緑をバランス良く、配置しているので参考にしています。
画家のカラーパレットから学ぼう
アルフォンス・ミュシャ(1860~1939)の作品は、オレンジと青の色の組み合わせを使って描いた作品が多いのですが、
明るさ(明度)と鮮やかさ(彩度)を変化させて、たくさんの色味を組み合わせています。
そうした色を、配色カードで色相と明度、彩度で確認して、
ノートに貼り付けて
色の組み合わせをストックしておいています。
配色カードは「色」を、数値で確認することができて、
制作をする時も混色をしたり、配色を確認する時に便利です。
制作ノートのすすめ
一冊ノートを用意して、作品の制作過程や色の混色の分量比を書き留めておくと便利ですよ。
効率的に作業がすすめられるし、あとで振り替えって問題点を改善する事に役立てたりできます。
まとめ
高校時代に、美術の先生が言っていたことを思い出します。
「色は、生まれ持ったものだからね。色は女性にはかなわないよね。」
美術のことについて、何もまだ分からなかった私は、
「そうか、色彩感覚って、生まれつきなんだ。」
「それじゃ、努力しても色使いはうまくならないのかな?」
そんな風に考えていたんです。
でも、美術を勉強していくうちに、色彩感覚は生まれ持ったものではなくて、勉強することによって上達させることができるんだということが分かってきたのです。
色のことについて、いろいろ勉強していきましょう。
勉強っていうと、
学校時代のつまらなく、つらいというイメージがありますが、自分の好きだと思う「絵」の配色を参考にして絵を描いてみることでも勉強になります。
それには、まずたくさん絵を観に行きましょう。
展覧会に足を運ぶことができなかったら、画集を観ることでもOKですよね。
子供が絵本を借りるために図書館に通っていたので、よく画集や美術の本を借りて読んでいましたね。
そして
自分で好きな画家が見つかったら、
配色カードを購入して、一冊のノートに配色カードから、色をカットして貼り付け、その画家のカラーパレットを作ってみてください。
絵を描くときの参考になるはずです。
また、私は
絵を描いた時に油絵で混色をしたときには、何色と何色をどれくらいの分量で混色をしたのか、メモをしてます。
後で似たようなものを描くときに、同じことを考えることがなくなり、作業効率がアップします。
ぜひ、これらのことを参考にして作品制作に役立ててみてくださいね。