混合技法とはⅠ

油彩画の技法の一つに、油彩とテンペラの混合技法というのがあります。今回はその技法をご紹介します。

この技法はテンペラ画と油彩画のいいとこ取りの描き方なので、使用できるようになると表現の幅が広がるので、ぜひ使ってみてください。

今回は説明文が長くなるので、3回に分けて紹介しますね。

まず初めに、テンペラについて紹介します。

テンペラとは?

2016年1月16日~4月3日に東京都美術館で開催された
ボッティチェリ展の図録表紙

油彩画が出現したのが15世紀、それ以前の画家たちはテンペラ絵具を使用して絵を描いています。上の写真の絵を描いたボッティチェリもテンペラで絵を描いていました。

ピエロ・デラ・フランチェスカやボッティチェリはテンペラを使用して傑作を生み出しています。17~18世紀はこの技法は忘れられていましたが19世紀にクリムトやモローが使用し、20世紀はワイエスがテンペラで制作をしています。

テンペラ絵具は顔料を卵黄と水で溶いて描く

色の粉末を何かしらの糊(展色材)という、で画面に定着することができるようにしたものが絵具で、油彩画だったらリンシードオイル(亜麻仁油)。日本画だったら膠。水彩絵の具だったら、アラビアゴムが展色材となります。

テンペラはを展色剤に使用しています。そしてその絵具で描いた絵のことをテンペラ画と呼んでいます。

テンペラ絵具の特徴は

テンペラ絵具は水で溶いて描くこともできるし、油性の画面に描くこともできます。乾燥すると耐水性になり、水に溶けなくなります。

普通、水性の絵具は油性の画面にはくっつきませんが、テンペラ絵具ではそれが可能なんです。なぜかというと、展色材に卵黄を使用しているためなんです。

マヨネーズを思い出してみると、マヨネーズは酢とサラダ油でできています、でも分離しないのは、卵黄を混ぜているからなんです、卵黄が界面活性剤の役割をして、水と油を結び付けているからなんです。

卵黄は天然の界面活性剤なんです。

なので、テンペラ絵具で描いた上に油彩絵具で描くこともできるし、油彩絵具で描いた上にテンペラ絵具で描くことができるんです。

テンペラ絵具の作り方

図書館に行くとたくさんの技法書が置いてあります。経済的にも私はできるだけ図書館を利用しているのですが、私の地元の図書館ではこんな本が置いてありました。

写真左側の本「テンペラ画ノート」みみずくアートシリーズに詳しくテンペラ絵具の作り方が載っています。

テンペラ画ノート  みみずく・アートシリーズ  視覚デザイン研究所 編          

だた、いろんな技法書を見てみると、その本によって、卵黄だけ入れる、とか白身もカラザも全部入れてしまって構いません、とかほんとうにいろいろです。

それに、スタンドリンシードオイルとダンマルガムの分量が微妙に違っていたりとさまざまです。

いままでやったことがなくても、技法書だけを読んで制作できるかなというとすこし難しいのではないかなと思うのです。

美術系の大学・短大・専門学校でテンペラ実習をやったことがある人なら、技法書を参考にして、多少のオイルの分量を自分でアレンジしてやってみることはできると思うのですが、まったくやったことがない方が、初めて技法書だけを見て、材料を自分で調達して・・・・というのは大変だと思います。

実際私も昔、やったことはあるのですが、家庭でやってみようとなると、画材店で粉状の絵具を買って、卵で展色材を作って、冷蔵庫で保存して、使い切れる分だけ考えて・・・となかなか面倒くさいです。

それに、水で溶けない顔料もあります。

参考までに

水だけで溶けない絵具
(水50%+無水エタノール50%の溶液を加える)

朱系

ブラック系

レーキ系

ローズマダー

特に練る必要のある顔料

シルバーホワイト

ローズマダー

*シルバーホワイトは有害物質を含むので、ゴム手袋、マスクを着用する

例外的に水を入れない絵具

岩群青(アズライト)

天然緑青(マラカイト)

ラピスラズリ

と、技法書に書いてあります。

       参考文献 羊皮紙に描くテンペラ画 田崎裕子  目の眼 定価本体3600円+税

などなど・・・なかなか大変そうです。

そこで!

性質のまったく同じアキーラ絵具をテンペラ絵具の代用として使用します。

テンペラ絵具は不透明で、グラデーションを作ることができません、なので、色の濃淡を表現したいときはハッチングといって、線を重ねて描いていく方法かあるいは点描てグラデーションを作ります。

油彩はグラデーションは簡単にできますが、その分乾燥が遅くて、乾燥を待ってから次の色を重ねないと、下の色が溶け出してしまいます。

そこで、両者の良いところを利用して描く方法が、油彩とテンペラの混合技法ということなんです

その性質を利用して、油彩絵具とテンペラ絵具を交互に描いていく

テンペラ絵具の性質とまったく同じものがアキーラ絵具です。クサカベという画材メーカーが学童用として、安全な絵具を開発、販売しました。

アルキド樹脂という、飛行機や自動車の塗料として使用されていた絵具を、画材メーカーのクサカベさんが開発販売しました。

クサカベさんのホームページはこちら

学童用として開発したので、発色はプロが使用するのには物足りないのですが、そこに水彩絵の具(プロ用)を加えることによって、発色の物足りなさをカバーすることができます。

油彩絵具と併用できるのはアキーラ絵具だけです、アクリル絵の具は使用できません、(くっつきません)ので注意しましょう。

まとめ

*テンペラ画とは、卵を展色剤として使用した絵具で描いた絵のこと

*テンペラ絵具は水溶性だが、油彩画面にも描くことができる。

*テンペラは水彩画と同じ速さで乾燥するが、完全に乾燥するまで1年かかる。乾燥が早いので、油彩絵具の様なグラデーションを作ることが難しい。グラデーションを作るには線の重ね合わせによるハッチングで描くか点描で描く。

*油彩画は、グラデーションを作ることは簡単だが、その分乾きが遅く、重ねて塗りたい場合は時間がかかる

*テンペラと油彩の両方の長所を生かした描き方(技法)が混合技法

*テンペラ絵具を作るの大変なので、性質のまったく同じアキーラ絵具を使用して混合技法で絵を描くことができます。

「物質同士の接着のメカニズム」を理解することができれば、絵は自由自在に描くことができます。

技法を一つでも増やすことは、自分の表現の幅をひろげることができますので、ぜひ、参考にしてくださいね。

関連記事・混合技法Ⅱ

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