複製画とは
画家が描いた絵、そっくりに作られた作品のことを「複製画」といいます。
「贋作」とは違いますよ。
「贋作」とは、オリジナルとは別の画家(作者)によって模写・模作されて
作者名を偽って流通・販売される作品のことをいいます。
「複製画」は画家(作者)の合意の上で模写・模作されている作品です。
また、大量生産ができる方法を取っています。
銅版画・シルクスクリーン版画・木版画は、油彩画・水彩画と違って、複製することを前提として作られていますが、あえて「複製画」とは言いません。
画家(作家)の同意の上で、オリジナル作品そっくりに制作することを「複製画」と呼んでいるんですね。
複製画の技法にはどのようなものがあるのでしょう
リトグラフ(平版印刷)
石版画と言ったりもします。
リトグラフの語源は、lithos(ギリシャ語で石の意味)からできたとされています。
18世紀に発見された新しい版画の技法で、版が平らなまま印刷をします。
現代は版は安価なアルミニウム板を使用していますが、
もともとは石炭石を使用していました。
版上に、専用のインクを使って絵を描き、水と油の反発作用を利用して
図柄にインクが載るようにして、プレス機をかけて紙に印刷する方法です。
このリトグラフの最大の特徴は、画家が描いた絵そのまま再現できることです。
筆後も同じように再現することができます。
18世紀の画家「ロートレック」は傾倒し、たくさんの作品を制作しています。
ロートレックの作品
タイトル「ムーランルージュ」
技法「リトグラフ」
この、リトグラフは18世紀に偶然発見された技法で、ロートレックの頃は
まだまだ描いた部分にインクを付けることが難しく、ロートレックのリトグラフの作品は3~4色で制作されています。
しかし、
19世紀頃になると、この技術が飛躍的に進歩し、その当時に活躍していた画家
「ミュシャ」は、色数も増えて、金や銀を使うなど豪華な作品を制作しています。
ミュシャの作品
タイトル「パリ・1900年」
技法「リトグラフ」
グラノリトグラフ
制作方法はリトグラフと同じ方法をとっていますが、版の素材が石炭石ではなくて、花崗石(かこうがん)を使用しています。
花崗岩とは石材として使用されている御影石のことです。
その他には、亜鉛版(あえんばん)を使用しています。
大量に印刷する場合に使われる方法です。
オリジナルリトグラフ
通常、版画は彫師、摺師の分業制で制作され、作家がサインを入れて完成になりますが、この工程を画家(作家)がすべて一人で行う作品のことをオリジナルリトグラフといいます。
芸術の世界においては、「複製画」と「オリジナルリトグラフ」では「オリジナルリトグラフ」の方に価値があります。
それは、版画を制作する目的で画家(作家)自らが下絵から版まで制作を行ったものだからなのです。
「複製画」の場合は、作家がいなくても制作することができます。
ただし、なかなか画家(作家)がすべてを行うことは難しいので作家自身が刷ったものでも、作家の監修のもとで職人が刷ったものでも「オリジナルリトグラフ」
と認められていてます。
完成した作品の左下にはシリアルナンバーを入れて、右下には自分のサインを入れても「オリジナルリトグラフ」ということにしています。
そして、あらかじめ決められた枚数しか刷らないのも「オリジナルリトグラフ」の特徴で、決められた枚数を刷り終えた版は斜めの線を入れたり、穴をあけたりして
二度と印刷できないようにしています。
エスタンプリトグラフ(複製版画)
エスタンプリトグラフとは技法のことをさしていうのではなくて
版画以外の技法で描かれた作品を版画にしたものを言います。
原画となる作品は画家が油彩画・水彩画・グアッシュ(不透明水彩画)
で描いた作品をもとに第三者が版画技法で制作したもので
原画となる作品は、版画にすることを目的にはしていないので、制作した画家本人、もしくは遺族の了承を得たうえで制作をしたものとなっています。
ジクレー
ジクレー(ジークレー)とは
フランス語で「吹き付けて色を付ける」という意味でリトグラフやシルクスクリーン版画と違い版を使わないで刷り上げるのが特徴です。
デジタルデーターを、上質なキャンバスや版画用紙の上にミュージアムクオリティの顔料でプリントを施します。
画家自身が監修を行い、プリント工房と画家が共同で作り上げる
「作品」ということがいえるでしょう。
ジクレー版画は、アートを身近にする可能性を秘めていると考えられていて美術業界では、
作品の値段=作品の価値
という価値観がありますが、この、ジクレーの普及により、音楽業界のように
作品の販売数や普及率が作品の評価に直結するような仕組みへと移ることが可能になるのでは?
と考えられているそうです。
現在では有名なルーヴル美術館やメトロポリタン美術館がジクレー作品を展示しているそうです。
オフセット・平版印刷
現在の印刷の主流として用いられる印刷技術の一つです。
版は平らで、版に付けたインキを「ブランケット」と呼ばれる樹脂やゴム製の回転ローラーに一度移してそのブランケットから紙に転写する方法で印刷されます。
版と用紙が直接触れることがない印刷の方法です。
シルクスクリーン・孔版印刷
20世紀はじめの頃までは、商業印刷の目的で使われていましたが、
1950年代以降はアメリカのロバート・ラウシェンバーグとアンディーウォーホールがシルクスクリーンを使った作品を制作するようになり、芸術表現の一つとなりました。
孔版(穴の開いた版のこと)印刷の一種でメッシュ状の版に、孔(あな)を作り
孔の部分にだけインクを落として印刷するとてもシンプルな印刷方法です。
ヘリオグラビュール・凹版印刷
写真の画像を非常に保存性の高いインクにより紙の上に定着させる技法です。
アクアチントによる、エッチングの一種で版は凹版で、版のくぼんだ所にインクを詰めて紙に印刷する方法を利用したものをいいます。
工藝画
美術印刷と職人の手彩色による複製画です。
この複製画は現在の大塚巧藝新社の前身である大塚巧藝社で生み出された技法です。
この技法を提唱したのは、横山大観です。
大塚巧藝社を創設した大塚稔氏は、絵画を撮影する写真家でした。
親しい間柄にあった横山大観に印刷の複製画の上に、実際の本画に使われている絵の具とほぼ同じものを手彩色してはどうかと提案して出来ました。
今もその技術が伝えられています。
この、大塚巧藝新社は日本画を専門として制作していますが、最近では、フェルメールなど油絵も同様の技術を用いて制作しています。
その他の印刷技術を用いた複製画の技法・技術について
その他にも、いろいろな印刷会社が独自で開発をした印刷技術を使って複製画が制作されています。
まとめ
*「複製画」とは、画家(作家)本人の監修・了承のもとに、原画とまったく同じように作った作品のこと。
*「贋作」とは、画家(作家)本人の同意がない状態で原画とまったく同じものが制作・流通されたもの。
*銅版画・木版画・シルクスクリーン・リトグラフは複製画を作ることを前提に作品が制作されますが、「複製画」と呼びません。
*複製画の技法と種類について
リトグラフ(平版印刷)
グラノリトグラフ
オリジナルリトグラフ・・・・
技法の名称ではなく、作家がすべてを手掛けた「作品」であるということを指す名称として使われます。
エスタンプリトグラフ・・・・
複製版画のことで、これも技法の名称ではなく「作品」であることを指す名称として使われます。
ジクレー
オフセット・平版印刷
シルクスクリーン・孔版印刷
ヘリオグラビュール・凹版印刷
工藝画
その他
印刷会社独自で開発した印刷技術を用いてつくられた複製画。
「複製画」について今回、いろいろと調べてみましたが、じつにたくさんの複製技術があることが分かりました。
古くからある印刷技術を使用した「複製画」から20世紀まで商業印刷として利用されていたものを利用したものまで、古今東西先人たちがさまざまな創意工夫をして「複製画」を作ることに取り組んできたことが分かりました。
現代では、デジタルのデーターを使って作品制作をする画家(作家)が登場してきています。
その、デジタルデーターを利用して印刷するジクレー版画は著名な作品の「複製画」として活用されるようです。
現在は世界的に有名なルーヴル美術館やメトロポリタン美術館がジクレー版画を使用した作品を展示しているようです。
デパートやギャラリーなどで展示・販売されている作品を見たときには参考にしてみてくださいね。