模写の歴史的背景とは
今回は模写の歴史について、ご紹介します。
美術作品の模写が普及し始めたのは、ルネサンスの時代(厳密には16世紀から)になります。
その当時は、貴族や裕福な中産階級が美術作品の収集を始めたころで、高い評価を受けていた絵画の模写作品への需要が高まってきたことによって、模写が広まっていきました。
巨匠と呼ばれる画家たちも先人たちの模写をして、技術を磨いていた
ドローイングは絵画や彫刻ほど評価は高くはないのですが、
芸術的な鍛錬の基礎として
ミケランジェロ、レオナルド・ダ・ヴィンチ、ラファエロ、デューラー、カラバッジョ、ルーベンス、レンブラント
といった名だたる芸術家たちも模写を制作していたのです。
模写を通して画家の視点を学ぶことができます
画家は模写を通して、絵のスタイル・陰影の加え方といった熟練された手法を習得することが主な目的なのですが、
その他にも、「再創造 recreate」として、先人たちの技術やモデルに対する解釈を自分の中に取り入れる、というためにも行われていました。
模写は時代遅れではないかと思う人には驚きかもしれませんが、20世紀を代表する画家である
セザンヌやゴッホ、スーラ、ピカソ、マティス、ジャコメッティ
などの芸術家たちも模写の練習を重ねることで才能に磨きをかけきました。
イタリアの巨匠、
ジョルジョ・デ・キリコ
は模写からはじめて、次に彫像の模写、最後に実際のモデルのドローイングを試みるように言っています。
昔の題材やスタイルをまねすることで、美的センスを養うことができ、なおかつ実際にモデルを描くときにとても役立てることができるのです。
模写をするときの見本となる絵は師匠や版画から
美術を学ぶ学生たちは自分の師匠の作品を模写して絵を学んでいました。
また、それと同時に、当時流通していた版画作品を模写することによっても技術を磨いていたようです。
当時の画家たちは版画作品のおかげで、多くのモデルを練習することができました。
そういった背景から
当時の画家たちは実際のモデルを見て練習しなくても済むようになり、版画の絵を使って、油彩画の制作を行っていました。
昔の画家が、目に見えたものを直接描くことはまれで、ヨーロッパ全土で普及していた版画を模写することで、油彩画の作品制作をしていたのですね。
参考文献 世界の名画に学ぶ 巨匠のドローイング 素描・デッサンの技能を磨く
メイツ出版 ガブリエル・マルティン著
まとめ
*模写が普及していったのはルネサンス時代。貴族や裕福な中産階級が美術品の収集を始めたことによって、需要が拡大した。
*歴史に残る巨匠とよばれる画家たちも、模写を通して先人たちの技術を学んでいた。
*模写は単なる複製画を作ることだけではなく、「再創造 recreate」として、技術や先人たちの解釈を自分の中に取り込む方法として活用していた。
*20世紀を代表する画家たちも、模写をして技術を磨いていた。
*ルネサンスから16世紀に普及していた版画により、画家たちは実際のモデルを目の前に描くことはせず、版画を模写することで油彩画の作品制作を行っていた。