こんにちは。
油絵を描くときに、いきなり真っ白なキャンバスに絵具を直接つけて描き始めていますか?
それとも
まず、別な画用紙に鉛筆で下書きをしてから、キャンバスに写し取って油絵の具を塗るようにしていますか?
ここで言っている
「下書き」は、「地塗り」とか「下塗り」と言われるものとはまた、違った別なものです。
下書きは
「エスキース」
と言います。
これから制作する絵の「設計図」のようなものだと思えば分かりやすいでしょうか?
そのエスキースのことについて、今回は紹介していきたいと思います。
下書き(エスキース)とはどのようなもの?
↑こんなかんじのものです。
エスキースとは、油絵などの絵画を制作するときに、
絵の構図やモチーフの配置。画面全体の明暗のバランスなどを検討するために描く下絵やスケッチのことをいいます。
制作する絵と同じ大きさの紙に原寸大で描くこともあれば、50号サイズ以上の大きさの絵などは
すこし小さめの紙に描いて、本番の絵を描く時に、拡大転写をすることもあります。
何枚か描くこともありますが、
1枚を修正しながら描いて、本番の制作に入ることもあります。
0号サイズの絵から8号サイズの絵は、エスキースをしないで直接油絵の具をキャンバスに置いて描き始めますが、(私の場合です)
10号以上の大きさからは、エスキースを描いてから、本番の絵を制作していきます。
大きさの目安は、画家によってそれぞれなのですが
絵が大きくなるほど
エスキースを作って本番の絵を描いていくようです。
エスキースの作り方は、本当に絵を描いている人それぞれだと思います。
画家によっていろいろなので、ここでは、私がやっているエスキースの作り方を紹介していきたいと思います。
下書き(エスキース)の役割について
下書きで構図を検討
まず、構図を決めます。
構図は大切です。
構図についての話は
関連記事 〔構図〕画家の目とカメラの目の違いを知ると絵が描きやすくなるよ
で紹介しています。
構図は色を塗り始めてからでは訂正することができませんからね。
訂正するとしても、今までの仕事の労力が無駄遣いになってしまいます。絵具も無駄になってしまいますしね。
それなので、
紙と鉛筆でのスケッチ(エスキース)の段階でいろいろな構図を検討して、確実に決まったところで、本番の制作に移る方が効率的な訳なのです。
構図についての詳しいお話しは、ここでは省略しますね。
構図は構図の話でたくさんの話ができるくらいに奥が深いので、簡単に「構図」とはこんなものですよ、という感じで↓下に「構図」を分かりやすく紹介した動画を載せておきましたので参考にぜひ、見て下さい。
愛知産業大学 通信教育部さんの動画を紹介させていただきました。
絵の構図、と一言で言ってもたくさんの種類があるんですね。
この動画では、
絵のモチーフや明暗の形や流れをザックリと捉えて、
一つの「まとまり」を見る人に感じさせるような画面を作りましょう、という提案をしています。
この「まとまり」は、画面の中に円や正方形、長方形、斜めの線、曲線の流れなど、なにかしらの規則的な形を配置するということですね。
人間は「まとまり」を求めようとする本能があります。
「まとまり」の形は、人の目を引きますし、人に満足感や安心、快楽といった感情もあたえるそうなんですね。
エンクロージャという言葉がありますが、エンクロージャは(囲い)という意味で
この「まとまり」と同じ意味のことなんです。
構図について
難しいことは分からないけど、画面にモチーフを配置するときは、何かしらのまとまりを付けるといいのだな、と覚えておくといいですよ。
下書きで画面の中の明暗(明るい所と暗い所)のバランスを検討する
これも構図とおなじことなのですが、
画面の中の明るい所と暗い所のバランスを検討する
ということです。
分かりやすくいうと、版画は白黒だけで絵が作られていますよね。
白と黒の分量がちょうどよいバランスで作られている絵はとてもきれいですよね。
その、分量の比率を下書き(エスキース)の段階でいろいろと考えていくわけです。
デザインだったら
画面の中に明るい色の部分と暗い色の部分をバランスよく考えて塗るといいのですが、
写実的な絵画の場合は
光の明るさの度合いによって、明るい色調の多い絵になったり
暗い色調ばかりの画面の絵になったりします。
たとえば、
夜の風景を描いた絵はほとんど暗い色調になってしまいます。
コントラストがない暗い絵だと、遠くから見たときに印象の薄い絵になってしまいます。
なので
夜の風景を描いた絵でも、主役になるモチーフの輪郭線の部分のコントラスト(明るい所と暗いところの差を付けてあげること)によって、
夜の風景を描いているんだけど
遠くから見たときに、目を引く絵を描くことができるようになります。
ほとんど、真っ白な絵もおなじですよね。
主役のモチーフのコントラストを付けることで、全体的に明るい絵なのだけれど、
遠くから絵を眺めてみても、目を引き付けるような絵にすることができます。
こういった検討を下書き(エスキース)の段階で入念に考えるといいですよ。
本番の絵で、油絵の具を置いてしまってから、訂正するより時間も労力も、絵具も最小限で済みますからね。
下書き(エスキース)はルネサンスの画家たちも描いていた
↑上の画像は私が、レオナルド・ダ・ヴィンチの素描を模写した作品になります。
この模写の絵は、レオナルドダヴィンチが、「岩窟の聖母」という油絵を描くときに描いた下書き(エスキース)の一部なのですが
画像は自分の画集から掲載したものです。画集を写真撮影したのでちょっと見にくくなってしまいましたが・・・。ご了承ください。
この絵の天使の顔の「下書き」が少女の頭部のスケッチということです。
天使は髪の毛がくるくるカールした髪型ですが、少女が振り向いたスケッチのポーズと顔の形が同じなので、
少女をスケッチしたものを参考に、髪型を変えて描いていることが分かりますね。
レオナルド・ダ・ヴィンチに限らず、この時代の画家たちは、
油絵やテンペラ、フレスコ画を描く時には、たくさんの下書きをしてから、
本番の作品制作に移っていました。
現代の画家は、クライアント(依頼者)の指示で絵を描くことは、本当になくなってしまいましたが、
18世紀頃までの、「古典絵画」と言われる絵を描いていた画家たちは
クライアント(絵の制作を依頼する人)の指示で絵画を制作していたのです。
そのようなこともあって
下書き(エスキース)を作らなくてはいけなかったのですね。
絵画制作の依頼を受けて描く場合は、依頼者の了承を得るためにも、完成に近い下書きを描いて、承諾を得てから
本番の絵画制作に取り掛かっていました。
もちろん、芸術的に優れた作品にするために、実物のモデルをよく観察して、
たくさんのスケッチやデッサンをして画面を構成して
絵を描いていたことはもちろんなのですが。
下書き(エスキース)を作らずに、直接キャンバスに絵具を塗っていくようになった理由は?
綿密な下書きをしないで、真っ白なキャンバスに直接絵具を置いて描く描き方をし始めたのは
「印象派」の画家たちの19世紀の後半くらいからでしょうか。
アラプリマ技法と言われています。
印象派は目に見えた光の現象や移り変わりを色で表現することだったので、
現場で実際の風景を目の前にキャンバスを立てて、直接油絵の具を置いていく描き方をしたのです。
目の前の光の移り変わりは、刻々と変化していきます。
素早く、キャンバスに描き留めておくためにも、実際の風景を目の前にして、キャンバスに直接油絵の具を付けて描かなくてはいけなかったんですね。
だけど、
19世紀以降も、油絵を制作するときにたくさんのスケッチやデッサンを描いて、
構図や明暗の調子を描く前によく検討してから描いた画家もいるんですよ。
アンドリュー・ワイエスという画家をご存じですか?
20世紀のアメリカの画家で、主にテンペラという画材を使って絵を描いた画家なのですが、
ワイエスは本当にたくさんの下書き(エスキース)を作ってから、本番の絵を描いているんです。
ワイエスはこんな絵を描く画家です。
genkou asanuma さんの動画を紹介させていただいています。
ワイエスは、テンペラ画家なのですが、ガッシュ(不透明水彩絵の具)を使っても描いています。
私が20代だったころ、福島県立美術館にはワイエスの絵が収蔵してあり、一度本物のワイエスの絵を観たことがあるんです。
緻密に描かれたところと、ザッと大まかに筆で描かれたところがあり、感動してみたことを覚えています。
そんなワイエスは20世紀の画家ですが、
たくさんの下書き(エスキース)を描いているんですね。
なので、19世紀以降も印象派のように即興で描かなくてはならない絵を描く画家以外は
エスキースで念入りに構図などを検討して描いていることが分かります。
下書き(エスキース)私のやり方を紹介します
私の場合は、今はきちんと模造紙を買ってきて鉛筆で下書きを描いてから本番の絵に取り掛かっています。
今は
と言ったのは、
実は、大学を卒業したばかりの頃は、フルタイムの仕事が終わってから油絵の制作をしていたので、
モチーフの取材になかなか行くことができなかったことと、
展覧会の締め切りに間に合わせたいという一心で
下書きをしないて、頭の中にある絵のイメージだけで、キャンバスに直接絵具を塗って描いていたんです。
ほんとうに、焦って描いていましたね・・・。
なので、当然、上手くいくはずもなく、焦りが画面に表れていたような絵でした。
今見たら、穴があったら入りたいくらい恥ずかしい絵です。
そうやって、昔描いた経験があるから
下書き(エスキース)をきちんと作ってから描いた方が一番効率よく絵を描くことが出来ると分かったのですね。
下書き(エスキース)を本描きに写すには?
エスキースに使用する紙は「クロッキー用紙」がいいのですが、
100号近いサイズの絵を制作していたので、クロッキー用紙ではサイズが小さいために、ここで説明で使用している紙は模造紙を使用しています。
このエスキースの大きさは70×117cmの模造紙に描いたもので、模造紙は100円ショップで販売されているごく普通の模造紙を
本番の絵と同じ大きさに切って、貼ってつくりました。
鉛筆で形を描いて
明るい部分と暗い部分と調子を鉛筆でさっとつけてあります。
途中で大きな構図などの変更をすることがなかったのですが、もし、途中で部分的に変更したい箇所が出てきた場合は
消しゴムで消していたら、消す面積が多くて大変になってしまうので、
そうした場合は
訂正したい箇所に、新しい紙を上から貼り付けて、新しく描くといいですよ。
けっこう、細かく描いています。
この絵は、転写するときは同じ大きさの本番の板だったので
この上にトレーシングペーパーを乗せて、トレーシングペーパーの裏側を鉛筆で
塗りつぶして鉛筆カーボンを作り、本番の板に転写する方法で転写を行いました。
転写の方法はいくつかあって
関連記事 〔模写の描き方〕10分の隙間時間を使って模写してみませんか
に転写の方法を紹介しています。
こちらのエスキースは
杉並木を描いた油絵のエスキースになります。
このエスキースも、模造紙を切り張りして、本番の画面の大きさに合わせて作り、鉛筆で下書きをしました。
この時は、直接模造紙の後ろ側を鉛筆で塗りつぶして鉛筆カーボンを作り
転写しましたね。
後ろ側をめくると、鉛筆で塗りつぶしたので真っ黒になっています。
私は、油絵を板に描くので、転写するときに、鉛筆カーボンでトレースして転写をしたのですが
キャンバスに転写をする場合は
エスキースと本番のキャンバスの画面に「格子」(グリット)を引いて、
上の画像では写真の上に格子(グリット)を引いていますが
写真ではなくて、下書き(エスキース)と考えると分かりやすいと思います。
こうやって
マス目の位置を比較しながら本番のキャンバスに絵を転写していく方法もあります。
この、エスキースも、格子(グリット)をひいて、本番の板にも同じようにグリットを引いて格子の位置を見比べながら絵を転写して描いています。
本番の油絵はこんな感じに出来上がりました。
筆記具は、鉛筆で描くと細部まで描くことができますが、
ザックリと描きたい人や100号の大作の場合は木炭などで描いて
フィキサチーフで定着させてから絵具を塗っていくといいと思いますよ。
まとめ
油絵を描くときは、直接絵具を置いて描く方法もありますが、
下書きをしてから本番のキャンバスに描くほうがいいですよ。
下書きは「エスキース」といいます。
絵画の設計図のようなもので、構図や明るい所と暗いところの調子を検討するために作ります。
早く作品を仕上げたいからと、頭の中のイメージだけで、じかに絵具を塗っていったこともありますが、
結局、やり直しが簡単に出来ないために、時間と労力・絵具が無駄になってしまうことがあります。
下書き(エスキース)の段階だったら、簡単に訂正することが出来るので、
下書(エスキース)を作ってからはじめることが、一番効率的でやり直しを防ぐ方法なんです。
これは、自分の今までの経験から確実にお伝えできる事でもあります。
エスキースの作り方については
使う画用紙や筆記具に決まりはないので、自分でいろんなものを試してみるといいと思います。
絵の下書きなのですから、自分がやりやすい方法がいちばんです。
急がば回れで、
事前の下準備をきちんとすることで、効率的に短時間で作品を仕上げることができます。
よかったら参考にしてみてください。